
日本人の英語力の向上がさまざまな分野で喫緊の課題となっています。
グローバルに展開するIT業界でも、国際共通語としての英語がそのコミュニケーションの基本といってもよいでしょう。
この記事では、ITエンジニアが外資系企業への転職を考える際の、言語環境としての英語について考察します。
同時に、資格や勉強方法についても解説を行います。
外資系企業と英語環境

外資系企業の4タイプ
外資系企業とは外国資本の会社のことですが、資本出資比率により大まかに4種類に分けられます。
「子会社」の場合
1つ目は「子会社」の場合です。
外国の企業が日本法人を設立し、100%出資するものを「子会社」とよんでいます。
トップ・マネジメント(経営幹部)は本国から派遣され、経営方針は本社の指示に従うのが一般的です。
日本アイ・ビー・エム株式会社や日本マイクロソフト株式会社などは、このような子会社にあたります。
「合弁会社」の場合
2つ目は「合弁会社」の場合です。
このケースでは、日本の企業と外国の企業が合意した比率で資本金を出資して設立されます。
経営方針は、出資比率の大きい側に強い権限があります。
たとえば、富士ゼロックス株式会社などはわかりやすい例でしょう。
日本の富士写真フイルム(当時)とイギリスのランク・ゼロックス社(当時)との間で出資比率が50%ずつの「合弁会社」として1962年に設立されています。
「買収会社」の場合
3つ目は「買収会社」の場合です。
日本資本だった会社が、さまざまな理由から外国資本によって買収されて、その参加に入った状態を指します。
買収されると、普通は経営方針が激変します。
「支社または支店」の場合
4つ目は「支社または支店」の場合です。
これは、日本に法人を設立せずに、営業拠点として設立する会社です。
出資比率と言語環境
では、なぜこの区別を知っておくべきかといえば、出資比率によって企業内での言語環境も左右されるからです。
英語圏に本社を持つ外資系で「子会社」や「支社」の場合は、社内の共通言語は英語だと考えて良いでしょう。
もちろん、日本人の同僚とは日本語で会話することができますが、上司が日本語がわからない英語のネイティブスピーカーというケースは普通です。
特に、IT系のエンジニアであれば、ほとんど英語でのコミュニケーションが必須と考えて良いでしょう。
「買収会社」も、場合によっては同じような状況になる可能性があります。
一方で、「合弁会社」の場合は、日本企業の出資比率が大きいのであれば日本の会社とほとんど変わらない言語環境になります。
つまり、英語ができなくても問題ありません。
日本の会社では、IT関連業務は日本の社外ベンダーに大きく依存することも多く、そのような環境ではエンジニアも日本語で問題ないでしょう。
ITエンジニアと英語力

ITは、Information Technologyの略で、日本語では「情報技術」と訳されます。
ITは、パーソナルコンピューティングが実現されていた1970年代にアメリカで生まれました。
その後、シリコンバレーなどの投資を呼び込む充実した起業環境の恩恵を受けて、2000年代には世界を席巻する産業分野となったのです。
多くのIT企業がアメリカ資本である理由の一つはそこにあります。
そのため、技術の蓄積や新技術の開発と応用については、アメリカが世界の中心なのです。
外資系ITエンジニアの基本言語は英語
この状況では、最新のプログラムも技術解説書も英語で書かれます。
また、フレッシュな情報収集の場であるカンファレンスでの共通言語も英語となるわけです。
つまり、外資系ITエンジニアの基本言語は英語といえるのです。
英語で理解する能力があると「時差」と「誤差」がなくなる
もちろん、日本語でもある程度のレベルまでは対応できるかもしれません。
ただし、英語で書かれたものを英語で理解する能力があると、最新情報を収集する際の「時差」と「誤差」がなくなるのです。
「時差」とは
「時差」とは、情報が日本語化されるまでのタイムラグのことです。
英語文献を和訳して出版するまでには、時間がかかります。
ドッグイヤーで進展するテクノロジー業界では、半年もすれば新しい状況が生まれます。
たとえば、英語の原書より翻訳版が半年遅れて出版されたとすると、情報の価値が下がっている可能性があるのです。
外資系企業では、スピード感を持って職責を果たせるかどうかが評価のポイントになります。
最新情報をスピーディーに獲得して、それを日常業務に反映できる能力が外資系ITエンジニアに要求されるのです。
「誤差」とは
もう一方の「誤差」とは、英語を日本語に訳す際に生じる、意味の欠落や誤解のことです。
英文を和訳するときに、英和辞書に書かれている日本語の意味をつなげても、その意味を完全に再現することは不可能といえます。
特に、IT系の技術英語の概念は、意味のある日本語に訳すことは困難といってよいでしょう。
日本語に訳された、アメリカ製のソフトウェアのマニュアルなどにその典型例が散見されます。
ITエンジニアであれば、意味不明な文章が書かれているマニュアルを読んだ経験が一度はあるはずです。
このような和訳文を理解しようとすれば、読んだ後で自分の経験や知識を総動員して、もう一度頭の中で翻訳する必要があります。
社外秘文書としてのマニュアル
なお、外資系企業では、セキュリティーの観点から、社外秘文書としてのマニュアルもあります。
特に、IT系のマニュアルは英文のものがほとんどなので、誤差が生じない代わりに英語力が必要なのです。
このような「時差」や「誤差」は、自分で英語の原書を読めれば一気に解決します。
もちろん、簡単に技術英語の読解力をつける方法はなく、それなりの努力は必要です。

ITエンジニアも英語資格を取るべきか?

資格試験で効果的に学ぶ
ITエンジニアに必要な技術英語力をつけるには、資格試験という目標を持って、期間を決めて集中して学ぶのが効果的な方法です。
エンジニアにとっての英語力とは、主に技術情報が掲載されたマニュアルの内容を理解する能力なので、英会話力はそれほど重要ではありません。
会話の練習は相手が必要ですが、マニュアルの読解は一人でも可能です。
つまり、技術英語は独学でも充分に学べるのです。
外資系企業で仕事を始めれば、英語ネイティブのエンジニアとの日常的なコミュニケーションの機会があります。
CTOを目指すならTOEICなどで800から900点
もし、一人で学んでいてわからないことがあれば、教えてもらうのもよいでしょう。
もちろん、ITエンジニアから始めて、将来的に外資系企業でのCTO(最高技術責任者)を目指そうというのであれば、相応の努力は必須です。
ビジネスレベルの英会話力やプレゼンテーションをこなすには、TOEICなどで800から900点はクリアしておく必要があります。
そこまで大きな計画があるわけではなく、技術情報の収集が目的であれば、手持ちの英語資料の意味を考えることから始めればよいのです。
まずは原書の読解を習慣化する
多くの外資系企業で運用されている、汎用IT機器のマニュアルなどがあれば、そのまま業務に活かせる可能性もあります。
結論としては、資格試験は目標としてはおすすめできますが、必須ではないといえます。
まずは、インターネット上の英和辞典などを活用して、これまでのエンジニア経験で得た知識と比べながら、原書の読解を習慣化してみましょう。
